大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(う)1814号 判決

被告人 井上直江等

〔抄 録〕

一、A弁護人論旨第一の二について。

原裁判所が鑑定人加藤友二に対し本件麻薬の含有量及び価格について鑑定を命じておきながら価格についての鑑定のないままに弁論を終結したことは所論のとおりである。しかしながら、この点につき原審の訴訟手続の経過を見るのに、原裁判所は第五回公判期日において右の鑑定の結果を記載した鑑定書の証拠調をしているのであるが、公判調書によれば、右鑑定の請求者である弁護人はその証拠調に当つて鑑定書を証拠とすることに同意しているほかなんら異議も述べず、また該鑑定書の提出を求めてもいないのであつて、その後弁論終結に至るまでこの点についてなんら主張をしていない。そして、他方右鑑定人加藤友二は鑑定を命ぜられるに先だち証人として取り調べられているのであるが、その供述によれば、同人は警察技師であつて警視庁において麻薬の鑑定に従事しているものであることが明らかであり、その際弁護人の尋問に対し自分は麻薬の価格の点については判らないと述べているのである。従つて、同人に対し価格の点についてまで鑑定を命じた原裁判所の措置は妥当でないというべきであるが、それと同時に、弁護人としても、同人が麻薬の価格については特別の知識経験を有する者でなく、その点の鑑定をするには不適当な者であることを十分了知していたものというべきであつて、これらの経緯に徴するときは、弁護人がその後第五回公判期日において鑑定書の証拠調に関しなんらの異議をとどめなかつたことは、これによつて暗黙のうちに鑑定人加藤友二に対する価格の点の鑑定の請求を放棄したものと解するのを相当とする。従つて、原裁判所がそのままの状態において弁論を終結したとしてもあながち違法であるとはいい切れないのみならず、かりにその措置が違法であるとしても、問題は本件麻薬の価格の点のみに関するもので、その証拠調の遺脱が直ちに判決に影響するものとも一概にいい難いから、結局この点は原判決破棄の理由とはし難い。論旨は理由がない。

二、同第一の四及びB弁護人の各控訴趣意第二点ついて。

論旨は、原判決が証拠として挙示した阿片酸二四八瓦入瓶は憲法に違反して令状によることなく押収されたものであるから、証拠とすることのできないものだと主張するのである。よつて原審証人大野春生同吉田勝のこの点に関する供述を見ると、司法警察員である右両名は昭和二十七年六月十四日午前八時三十分頃原審相被告人であつた片倉蔵を麻薬取締法違反の嫌疑で逮捕状によつて逮捕するため今一人の巡査とともに片倉か当時雇われ同居していた上原選明方に赴いたところ、その時片倉は外出不在であつたが、同人らの来意を聞いた上原選明及びその妻が上つてくれというので、案内されて同家二階の片倉の部屋の入口まで行つた、そして、同人らは片倉の居室内には入らなかつたが、片倉に麻薬所持の嫌疑のかかつていることを聞いた上原夫婦ほか一名の者が右室内を探したところ、前記阿片散を発見し、上原がこんな危い物は持つて行つてくれという趣旨のことを申して差し出したので、右司法警察職員らは同人の任意提出による領置の形式で手続をとりこれを警察署に持ち帰つた事実が認められている。そこで問題は、この事実が捜査官憲による令状によらない押収ということになるかどうかということであるが、本件では少くとも上原方に赴いた司法警察職員三人が自ら直接片倉の居室に立ち入り捜索してその阿片散を持ち帰つたわけではないから、これを目して直ちに令状によらない押収捜索だと断定してしまうわけにはゆかない。もちろん片倉の主人である上原選明らといえどもみだりに片倉の居室に立ち入りその所持品を持ち出すというのは本来は許されないことである。しかし、それは上原らの行爲が違法だというだけのことで、任意提出による領置においては、その提出者が所有者その他権限ある者であることを必ずしも必要としないのであるから、これを領置した司法警察職員の所爲がそのことからすぐに不法になるという筋合のものではない。ただ、右の場合、司法警察職員が単に上原の発見してきた阿片散の任意提出を受けこれを領置したというだけでなく、自らは直接捜索することを避けて、予め判示又は暗黙のうちに第三者である上原らに慫慂して室内を捜索せしめその阿片散を持ち出させたとしたのであつたならば、たとえ後に同人から任意提出を受けた形式をとつたにしても、それは結局自らの手で捜索押収するのと選ぶところのない一種の脱法行為であるから、明らかに不法な押収に属すると目しなければならない。そこで、本件の場合がそのいずれに属するかは、記録上やや微妙なものがないではないが、前記司法警察職員が上原らに対し室内捜索を慫慂したという明らかな証拠は少くとも存しないのであるから、これをもつて令状によらない不法な押収であると断定することは困難である。のみならず、かりにそれが所論のとおり令状によらない違法な押収であると仮定しても、それは押収手続が不法だというに止まり、直ちにその物の証拠能力に影響を及ばすものとは解せられない。けだし、その証拠としての収集の手続に違法な点があつたからといつて、その物の形状、性質自体になんらの変化を生ずるというわけのものでもないし、かかる違法を抑制するためにその物の証拠能力を否定しようというのは考え方として筋違いの感を免れないからである。としてみれば、いずれにしても本件阿片散は証拠能力の認められるものであるから、論旨は理由がないといわなければならない。

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